オンライン TUFS 日露サマースクール 2020

2020年8月7日(金)
 2週間にわたって開かれた『オンラインTUFS日露サマースクール 2020』が終了しました。本来であれば 、一昨年、昨年と同様、ロシアの6協定校から約30名を本学に迎え、対面で本学学生と交流しながら言語と国際日本学を学ぶ「日露ビジネスサマースクール」として実施するはずでしたが、それが新型コロナウイルスの影響で中止になったのに伴い、本学の世界展開力強化事業(ロシア)実施本部が代替イベントとして企画したものです。参加したのは、本学から29名、ロシアの大学から30名で、対面ベースのサマースクールとほぼ同じ参加規模となりました。本学と協力協定を結ぶ、モスクワ大学(MGU)、モスクワ国際関係大学(MGIMO)、ロシア人文大学(RGGU)、高等経済学院(HSE)(以上モスクワ)、ペテルブルク大学(SPbU)、極東連邦大学(FEFU)(ウラジオストク)の6大学、およびモスクワ市教育大(MCU)の学生が参加しました。終了後に学生から集めたレポートによると、「大変有益で、次回も是非参加したい」等の高評価を示すコメントが多数寄せられました。(詳細なフィードバックはこちら

プログラム内容

  • 期        間 :  2020年7月27日(月)~  同 8月7日(金)(土日除く10日間)
  • 実施時間: 日本時間16時  ~ 17時半ないし19時頃まで
  • 日       程:

7/27(月)-  ガイダンス、講義『INTRODUCTION TO TANDEM LEARNING』(英語)
7/28(火)-  タンデム学習(自己紹介)
7/29(水)-  講義『日本へのインバウンドツーリズム』(ロシア語)
7/30(木)-  タンデム学習(テーマ:観光)
7/31(金)-  タンデム学習(テーマ:学生同士で自由に決定)
8/03(月)-  講義『イマドキの日本文学』(ロシア語)
8/04(火)-  タンデム学習(テーマ:文学、その他芸術一般)
8/05(水)-  講義『字幕翻訳とは』(グループワークつき)(英語)
8/06(木)-  字幕翻訳ワークショップ(ロシア語⇒日本語)
8/07(金)-  字幕翻訳ワークショップ(日本語⇒ロシア語)

参考:案内(チラシ)

オンライン開催に至る経緯

 当初 2020年度のサマースクールは、東京オリンピック・パラリンピックの開催されることになっていたため、通常の7月後半ではなく、約2ヵ月遅らせて 9月に開催される予定でした。ところが全世界を襲ったコロナ禍により、既に5月時点で実施を中止することを余儀なくされました。そのようななか、本学とロシア協定校の学生間の交流と学びの場を別の形で提供しようと、オンラインでのサマースクールを企画し、実施することになったものです。

企画時に留意・工夫したこと

a.  東京、モスクワ、ペテルブルク、ウラジオストクに散らばっている学生を同時に動員するに当たり、まず念頭に置かなくてはいけないのが「時差」。動員しやすい最大公約数的時間として日本標準時 午後4時にスタートすることにしました。東京の午後4時は、それぞれモスクワ・ペテルブルクの午前10時、ウラジオストクの午後5時。

b.  対面でのサマースクールでは、1日に5~6時間かけていましたが、時差やオンラインでの負担、集中力持続性等を考慮し、1日あたり最大3時間としました。

c.  当初は語学学習(タンデム)のみを行うことを考えましたが、単調になることを避けるため、一部 タンデムと国際日本学を交互に行うことにしました。

d.  国際日本学的講義を2コマを入れましたが、講義の翌日のタンデムでは、可能な限り講義内容に沿ったテーマで話し合ってもらうことにし、互いに関連性をもったプログラムにしました。

e.  初日にタンデム学習の意義、進め方について詳しく説明することにより、(単なる雑談に終始しないよう)学生にきちんとした心構えを持ってもらうことにしました。講師は、本学の博士課程でタンデム学習を専門的に研究している ベンジャミン・ラーソンさんにお願いしました。ラーソンさんには、一昨年の初回サマースクールの時から協力してもらっています。

f.  学生に作文(添削済みのワードファイル)と音読(音声ファイル)を Googleフォームに添付して送ってもらい、評価材料とすることにしました。一方、座学とグループワーク(ワークショップ)については、レスポンスシートを同フォームで送ってもらうことにしました。これにより学生は対応しやすく、評価する側にとっても効率的に作業を進めることが可能となります。

g.  プログラムに多様性とエンターテインメント性を持たせ、タンデム学習を発展させたグループワークの機会を提供できるよう、昨年に引き続き、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)様の協力のもと「字幕翻訳ワークショップ」を入れることにしました。

本学およびロシア協定校からの参加状況

・本 学22名(=単位取得) + 履修登録なしで参加した学生 7名、計29名
・協定校27名 +その他 3名(既卒 1名、非協定校 2名)、計30名
 (27名内訳:MGU 7名、MGIMO 4名、RGGU 5名、HSE 8名、SPbU 1名、FEFU 2名)

他:本年11月開催のONLINE J-ANIME MEETING IN RUSSIAの新規インターンとして応募してきた者のうちの6名の学生(神戸市外大2名、上智大2名、大阪大1名、筑波大1名)が字幕ワークショップに出席しました。インターンシップ参加前の「事前学習」でもありました。

講義:INTRODUCTION TO TANDEM LEARNING

 本学博士後期課程でタンデム学習を専門に研究している米国籍のベンジャミン・ラーソンさんが初日にタンデム学習概論を講義しました。学生と対話しながら、分かりやすい平易な英語で話してくれたのが印象的でした。講義の概要は以下のとおりです。

(タンデム学習の定義)
 タンデム学習とは、ある言語を外国語(目標言語)として学習している者Aと、当該言語を母語とする者Bがいて、逆にBはAの母語を外国語として学習しているという相互性が成立しているなかでAとBがペアとなり、パートナーであるネィティブスピーカーの助けを借りながら、それぞれの目標言語を互いに学習するものです。対面式タンデム Face-to-face tandem とインターネットで画面越しに行う E-tandem があります。今回のサマースクールでは E-tandem を行いました。

(基本原則)

・自律性(自分で学習目的や進め方を明確にし、パートナーと共有)
・互恵性(ギブ&テイクの精神)
・一対一(パートナーがいない人を救済する場合を除き、原則 一対一の環境を整えること)
・アマチュア同士(教師と生徒の関係ではない、互いにフラットな立ち位置をベースにしていること)

(特に留意すべきこと)

・自分の学習のみならず、相手の学習を助けることも同程度に重要であること(互恵性)
・パートナーに目標言語のどんな側面に焦点を当てたいか、どのように手伝ってもらいたいかを知らせておくこと
・テーマが事前に分かっているときは、十分な準備をして臨むこと
・間違いを訂正する際に、明示的に行うか、または暗示的に行うかを予め相手と合意しておくこと

(効用)

・第三者の目を気にせず相手との会話に集中できること
・パートナーの文化的バックグラウンドを吸収できること
・友達づくりという副次的効果があること

写真1 – タンデム学習の基本原則を説明するベンジャミン・ラーソンさん

タンデム学習の構成

1回のタンデム学習を次のように時系列的に構成しました。
① ロシア語で会話(20分)
② 日本語で会話   (20分)
③ 会話内容をベースに目標言語で作文 (30分)
④ 作文をネィティブスピーカーが添削 (15分)
⑤ 音読し、発音をネィティブスピーカーがチェック・訂正(15分)
⑥ 6~9人からなるグループで自分の作文を音読発表       (15分)
⑦ 作文と録音した音読を Google Form で提出(評価目的)

テーマは次のとおり (パートナーは毎回変更)
第1回(7/28):自己紹介

第2回(7/30):観光(前日講義『インバウンドツーリズム』を念頭)
第3回(7/31):自由設定
第4回(8/04):文学 または他の芸術分野(前日講義『イマドキの日本文学』を念頭)

写真2 – 楽しそうに話し合うペアを組んだ学生たち

 

 

 

写真3 – グループ内で 1人の学生が音読を披露したあと、拍手でたたえる他の学生たち

 

 

 

 

 

 

 

 


国際日本学

 ロシア語で教授する「国際日本学」を2コマ用意しました。2人の講師はロシア語ネィティブです。ロシアの学生は自分の母語で日本についての講義を聴講できるので、内容に集中でき、理解を深めることができます。一方、本学の学生にとっては、ネィティブが普通のスピードで話すロシア語についていくのは容易ではないものの、学習している言語で講義を聴く体験をすることで、自分の現在のヒアリング能力を再確認し、さらに自国のことを説明するために役立つ語彙や言い回しを学習する動機づけとなります。とはいえ本学の学生の理解を助けるため、2人の講師には投影・配布資料のテキストをロシア語のみならず、日本語でも記載してもらうようお願いしておきました。二人とも日本語はネィティブレベルなこともあり、快く対応していただきました。

 テーマに選んだのは、「観光」と「文学」。講義の翌日のタンデム学習で、原則的に前日聴いた講義内容について話し合ってもらうので、比較的とっつきやすい、話しやすいテーマを選びました。 以下にそれぞれの講義の概略をご紹介します。

(1)『日本へのインバウンドツーリズム』(2020年7月29日 16:00-17:30)

 講師は JIC旅行センター㈱ インバウンド部 課長のデニス・モロゾフさん。

 概要: 近年、官民挙げてのインバウンド旅行者誘致の努力の甲斐あって、昨年度まで順調にその数を伸ばすことに成功し、ロシアからの旅行者も漸増傾向にあった。誘致強化策とは、査証取得手続きの簡素化、ロシア市場への情報発信強化、行き先拡大や増便等であった。その一方で、日本のホテルの強気かつ複雑な料金体系、安売り競争とサービス低下、個人旅行客の増加、東京・京都などのゴールデンルートにおけるオーバーツーリズム(特定地域への観光客集中)問題などが顕在化していた。対応策としてマイクロ―ニーズの顧客拡大、富裕層の囲い込み、リピーターへの新規ツアーや体験型旅行の提案を行い、成果が上がりつつあった。ところが2020年春先から世界的なコロナ禍が旅行業界に大打撃を与え、日露双方の旅行代理店の大量倒産の可能性さえささやかれている。サバイバル策として、新常態への対応とサービスレベルの維持の両立、安全・安心とプライベート感重視の新商品開発に力をいれていくことになる。

 講義後:就職先として旅行業界に関心のあるロシア人学生が何人かおり、モロゾフさんを質問攻めにしました。日本の旅行代理店で働くにはどうしたら良いでしょうか?という単刀直入な質問もありました。

 写真4 – レクチャーするデニス・モロゾフさん

 

(2)『イマドキの日本文学』 (2020年8月3日 16:00-17:30)
 講師は、本学博士後期課程在学中のマリア・プロホロワさん。

 概要: ロシアで既に人気の日本人作家は(絶対数は多くないものの)、村上春樹、吉本ばなな、村上龍、鈴木光司らである。村上春樹は、欧米文学や自身の翻訳活動の影響を受けてか文体が欧米寄りなので、日本語学習者の教材としても使われている。日本文学にまつわる注目点は、ロシアに比べて古典崇拝が少ないこと、純文学と大衆文学との境界が曖昧なこと、ロシアの文学は過去と未来に集中するが、日本文学は現在をテーマにした作品が多い傾向があることなどだ。また日本の読書傾向として、外国文学より国内文学の方が好んで読まれていることが挙げられる。

 日本文学で好んで取り上げられるテーマにもいくつかの特徴がある。まず、ロシア文学ではそれほど注目されない「食べ物」を通して、気持ちの動きから哲学まで表現されることである。日本現代文学作品の舞台として、カフェやバーが使われることが多い。ストレス社会の中で、文学は癒しを与えようとしている。また最近は特に「食べ物」と「記憶、思い出」をめぐる物語が多い。純文学では、居心地の良い「孤独」と「自由」のテーマがよく取り上げられる。動物も人間社会に理解してもらえないことが多い故「アウトサイダーの代弁者・理解者」になる。日本文学のキャラクターは永遠の幸せなど求めず、たまにいいことがあればそれで充分といった具合だ。女性作家が書く恋愛小説は衝撃的なストーリーや不思議な組み合わせが多いが、男性作家のそれは伝統的手法をベースにしている。仕事ぶりや普段目立たない職業への注目は、日本の文学や映画の重要な特徴の一つである。外国に拠点を置く日本人作家による異文化観は、西洋にとって独特で大変興味深いものになっている。その一方、日本語で執筆する外国人作家も現代日本文学をより豊富にしている。

日本現代文学の興味深い作家トップ5
・多和田 葉子 (ドイツ、言語、実験)
・町田 康        (パンク、犬や猫、不条理)
・川上 弘美    (人間、自然、シュール)
・村田 沙耶香 (プロテスト、 未来、想像力)
・平野 啓一郎 (分人、インテリ、美術)

 講義後:マリアさんの現代日本文学への愛情がたっぷり伝わるレクチャーだったこともあり、日露の学生たちは彼女の推薦作品に読書欲を大いにかきたてられていたようでした。

 写真5 – レクチャ―するマリア・プロホロワさん

 

字幕翻訳

(1)『字幕翻訳とは』(2020年8月5日 16:00-17:30)

 講師は日本映像翻訳アカデミー㈱ の浅川奈美さん(シニア・マネージャー)と石井清猛さん(チーフ・ディレクター)。

 概要: 現代人が生活し、働くこの世界はビジュアルメディアに溢れている。学生がどのような会社、団体に就職しようが、ビジュアルメディアに何らかの形で対応していかなければならない。その意味で学生のうちにビジュアルメディアが何たるかを知っておくことは大きなアドバンテージを持つことになる。ビジュアルメディアを形作っているのは映像、音声、言語の3つである。メディアコンテンツは、その訴求対象としての視聴者により  B to C(Business to Consumer)と B to B(Business to Business)に大別できる。前者は映画やテレビドラマ等、後者は企業向けのPRビデオ等である。メディアコンテンツには、ストーリー、メインキャラクターが存在し、ストーリーは、「設定」、「対立」、「解決」から構成されていて、これを Three-Act Structure「三幕構成」という。そこに込められたメッセージ・エモーションがターゲットオーディエンスに正確に届かなければならない。そのコンテンツを他国のオーディエンスに提供する場合に、字幕翻訳の必要性が生まれる。字幕翻訳者には、そのコンテンツのクリエーターと同レベルの表現力が求められるし、日本製のコンテンツであれば、そのコンテンツの意味を世界に向かって力強く伝えるに足る日本文化への理解と知識が必要だ。ストーリー構成を参加学生に理解させるために、2つのテレビCMを紹介した。文字だけの翻訳と異なり、映像翻訳においては、言葉に加えて 映像、音声の意味もしっかり理解しなければならない。更に脚注・注釈をつけることが不可能な状況、すなわち字数=時間の制約があることを忘れてはならない。

 写真6 – Three-Act Structure(三幕構成)について解説する JVTAの浅川奈美さん(左)と石井清猛さん(右)

 

 

 

 

 

 

 

 


(2)『字幕翻訳ワークショップ(露⇒日)』
(2020年8月6日 16:00-19:00)

 講師は日本映像翻訳アカデミー㈱ 桜井徹二さん(学校教育部門プログラム開発担当)、アシスタントとしてアレクッスさん。

 概要:日本語で字幕を作成する時に守るべき主要な3つのルールとは、「一秒4文字」の文字数制限;「14文字2行以内」;句読点を使わない(句点は全角スペース、読点は半角スペースで代用)。ウォーミングアップとして、コメディドラマ(ロシア語)のワンシーンを各自に翻訳、その後グループ(10)で議論しながら最適訳を導き出させた。各グループで作り上げた字幕翻訳について、講師の桜井さんが細かなニュアンスを含め講評した。字幕翻訳の主要ポイントとは、キャラクターの性格を反映させること;オリジナル会話のリズムに合わせること;文化的背景を考慮すること;常に視聴者に配慮することである。その後、本番としてソ連時代のコメディ映画のワンシーンを題材に字幕翻訳に取り組んだ。ウォーミングアップ時と同様にグループ訳について講師が講評・コメントをした。

 写真7 – 日本語の字幕作成ルールを解説する JVTAの桜井徹二さん(右)とアレックスさん(左)

(3)『字幕翻訳ワークショップ(日⇒露)』(2020年8月7日 16:00-19:00)

 講師は日本映像翻訳アカデミー㈱ 石井清猛さん、アシスタントとしてマリア・プロホロワさん。

 概要: ロシア語で字幕を作成する時に守るべき主要な6つのルールとは、「一秒15文字」の文字数制限;「40文字2行以内」;「е」だけではなく「ё」も使用;ロシア語の引用符を使用;ロシア人でも分かる「感嘆符・間投詞」は基本的には訳さない;固有名詞はポリワノフ式で行う。ウォーミングアップとして、世界中で人気のアクションアニメのワンシーンを各自に翻訳させ、その後グループ(約10人ずつ)で最適訳を導き出させた。各グループで合意した翻訳について、講師の石井さんとマリアさんが細かなニュアンスを含め講評した。字幕翻訳の主要ポイントとは、各セリフのもっと大切な情報、伝えたいことを優先して訳すこと;キャラクターの性格を反映させること;オリジナル会話のリズムに合わせること;文化的背景を考慮すること;常に視聴者に配慮することである。その後、本番として、地獄を舞台にしたコメディアニメ作品のワンシーンの字幕翻訳に取り組んだ。ウォーミングアップ時と同様にグループ訳について講評・コメントがあった。

 写真8 – ロシア語の字幕作成ルールを解説する JVTAの石井清猛さん(右)とマリアさん(左)

以 上